中年者の前十字靭帯損傷に内側関節裂隙狭小化を示すO脚変形を伴った場合の治療は、判断が難しいです。
1996年より上記にケースに高位脛骨骨切り術のみを行っていましたが、回旋動揺性が残り成績があまりよくなく、2003年からは世界中の論文を読んだ上で、スポーツ・レクリエーション活動をおこない不安定感と内側部痛の症状のうち、主症状が不安定感のケースには、前十字靭帯再建術と高位脛骨骨切り術を同時におこなっています。
現在のロッキングプレートの手術固定機器がでてからですが、2010年、世界に先駆け英文報告しました。それを見て、受診される患者さん今もがおられ、うれしい限りです。

最初に国内で発表したときには、理解が得られず、袋叩きにあいましたが、現在は、皆が行う手術となりました。以前は、おそらく、スポーツ・レクリエーション活動を目的に骨切り術をおこなうことが、認められない時代だったんだと思います。
変形性膝関節症すなわち膝関節炎による関節内滑膜炎がベースにあるので、再建靭帯は 5-10年もてばいいかなと考えています。私はこのO脚変形を伴うケースには、シングルバンドルで再建しています。理由は、本人が知らずとも以前の前十字靭帯損傷例と思える例が多く、やや時間の経った脛骨前方亜脱臼が残存していること、50歳前後が多く関節内の滑膜炎があり、おそらく将来に前十字靭帯が滑膜炎で変性していくこと、それらのため強い強度が必要と考えているからです。ダブルバンドルで1例の高位脛骨骨切り術+前十字靭帯再建術を行いましたが、前述の理由を考え、シングルバンドルに戻しました。​この同時再建は、不安定感とO脚変形のあるランナーには必須と考えています。
手術手技については、こちらをご覧ください。

51歳女性 スポーツ継続希望(ランナー) 膝くずれとO脚変形に伴う内側部痛がありました。

左:手術前下肢全長レントゲン正面像では、荷重線は膝の中央からかなりはずれ内側端を通っていて、前十時靭帯損傷に伴うグラグラ感にO脚変形に伴うグラグラ感が合わさり、痛みのためにスポーツ活動が制限されていました。中央:外反ストレスで外側の軟骨は大部分残っています。右:内反ストレスで内側の軟骨はありません。

OWHTOACL手術前Xp

手術前に荷重線が中央よりやや内側を通るように計画しました。

OWHTOACL手術前計画

関節鏡所見 左:大腿骨・脛骨側とも軟骨が完全に摩耗し、骨が露出していました。右:前十字靭帯は全くなく、見えているのは後十字靭帯です。

OWHTOACL手術中関節鏡所見

手術後下肢全長レントゲン正面像で、手術前の計画通り荷重線は中央からやや外側に移動しています。

OWHTOACL手術後Xp

関節鏡所見 左:1年後大腿骨側はほぼ軟骨が再生し、脛骨側は7割方軟骨が再生していました。右:プローベで触っているのが、前十字靭帯で緊張が保たれていました。

OWHTOACL手術後関節鏡所見